かへでぱへ

思ったことなどです

Bルート

仕事をして帰って寝て、起きてまた仕事をして帰って寝る。心のゲージが、少しずつだが確実に、無理のゾーンへとさしかかってきているのを感じる。同じことの繰り返しで、ハリのない生活。この生活はしばらく続きそうで、その先に何かがあるわけでもない。そう考えると、まるで行き止まりに向かってマラソンをしているような気持ちになる。今ので無理のゾーンがまた少し広がった気がする。土曜の朝。憂鬱な思考に耐えかねた私はようやく起き上がった。今日の予定はクリニックへ睡眠薬を貰いに行くことだけ。薄暗い部屋は白い息が出るほど寒い。氷のように冷えた指先が痛い。雪が降っているんじゃないの。カーテンを開いたらのしかかってきた曇天。ダメだ。もう無理だ。

  

お医者さんは私の話なんて聞いてないんだと思う。パソコンばかり見ているから。「それは大変でしたね」って、せめて目を見て言ってくれたらと思う。10分くらい話したあと、薬局でいつもどおりの薬をもらった。曇天の空は相変わらずで、クリニックに入った時から時間が進んでいないような感じがする。道路の脇には汚い雪が寄せられている。

 

毎回毎回、同じ薬を同じ分量だけ出すんだったら、あのお医者さんはいらないんじゃないかと思う。いやそれは私が今安定しているからそう言えるのであって、きっともっと不安定な人や大変な人には、量や種類を調整してもらわなきゃ困るのだ。同じ薬を同じだけ貰い続けている私は、多分、安定しているのだ。私は、普通の人より少し低いところで安定している。死ぬほどつらくはないけど、いつも少しつらい。少しだけマイナスのところに、ずっと心がある。これが普通になってしまって、こうなる前がどうだったかよく思い出せない。やっかいなところに安定してしまった。昔はもっと笑ってた気がする。道ぞいの公園で、子どもたちが溶けかかった雪だるまの頭を滑り台の上から落としていた。叩きつけられて割れる頭。子どもたちがキャーキャーと叫ぶ。

 

まだ帰りたくないと思った。もう用事は無いのだけど。何かしてから帰ったほうがいいんじゃないかと思った。どこかへ寄り道してみたくなったのだ。こんな気持ちになったのは久しぶりだ。昔はもっと笑ってた気がする。まだ帰りたくない。不思議な予兆に私の胸は静かに踊った。

 

私はくるりと向きを変え、来た道を引き返した。薬の袋は、かばんの内ポケットにしっかりと収まっている。