世界の裏側
街外れの交差点。暗闇に浮かぶ信号。風はしんと止み、冷たい空気が漂う。
一台の車の音が近づいてきた。
暗い道路だった。私は赤い光をぼんやりと眺めながら、惰性で走る車にブレーキをかけた。ウィンカーを焚くと、等間隔のリズムが、車内を支配した。
緑色のランプを確認して、私はゆっくりとアクセルを踏んだ。等間隔のリズムは急に途絶えた。代わりにエンジン音が、車を満たしていく。
バックミラーには、どんどん遠くなっていく交差点が見えた。ついさっき、あそこへ私が入ってきて、そしてさっき、あそこから私が出てきたのだ。私以外の誰も、それを知らない。あそこには、誰も居なかったから。
林沿いのカーブに入ると、バックミラーの交差点は見えなくなった。月明かりは遮られ、闇は一層深くなった。下りのカーブは、ついスピードが出すぎてしまう。
......あの信号は、まだ光っているだろうか。あの交差点は、消えて無くなっては、いないだろうか。どこかへ行ってしまっては、いないだろうか。
......ああ、いま、世界の中で、私だけ...。
下りのカーブをようやく抜けて、直線道路に出た。暗い林は後ろへ飛び去り、道路脇には畑が広がった。
......私だけが、あの交差点を、知っている。
あの交差点の、在るということを、知っている。
私がいなくても、あの交差点は、きっと在るだろう。暗闇の中に、ぽつんと、冷たく、在るだろう。あの信号は、動き続けているだろう。暗闇の中で、赤緑赤を。ただ、赤緑赤を。音もなく。
私だけが知っている。赤緑赤、赤緑赤。
AM02:00:03。
信号は赤から緑へ。