かへでぱへ

思ったことなどです

書くことは怖いよ。

「書くことは怖いよ。

書くとさ、書いた人間の中身が、現実の世界に出てきちまうんだ。ああこいつ、こんなこと思ってたんだ、とか、こんなこと経験したんだろうな、とか、書いたものから、書き手の内面にあったリアルが浮かび上がってきちまうんだ。それが、書くっていうことの怖さなんだ。

現実に生きていない作家はいないだろ?誰しも、現実、この世に生きているんだ。現実にはたくさんの人間がいる。おれの周りには、おれと深く関わっている人間が、たくさんいるんだ。おれが書いたものを見てさ、誰がどんな風に傷つくか、想像するんだ。もしこれを書いたらどうなるだろう、って具合だね。そうするともう、ペンが進まなくなるんだ。怖くてね。

おれは別にさ、日常のど〜〜うでもいいことを書いたりした時のことを言っているんじゃないぜ。そんなものは、書くって言わないね。おれの言う、書くってのは、もっとこう、自分の内面と向き合って、奥深くにある、形にならないようなものを捕らえて、伝達可能な言葉にして、この世に出すってことなんだ。これが、おれには恐ろしいんだ。

秘密の無い人間はいないだろ?どんな人間だって1つや2つ、墓場まで持っていきたいような秘密があるはずだ。墓場じゃなくたっていい、毎晩、自分の部屋で、こっそりひとりで眺めていたいような秘密だってある。真剣に書くってことはよ、こういうものが、自分の外に漏れちまう体験なんだ。秘密はなんで秘密か、分かるか?秘密は、人を傷つけるから秘密にしてるんだ。それが外に出たら、必ず誰かを傷つけちまう。なぁ、だんだんわかってきてくれたか?

 

あんた、ちょっといい顔になってきたじゃないか。やっと、少しばかり、わかってくれたみたいだ。おれだって、こういう話をすることに、ためらいはあったさ。そして今は、やっぱりやめときゃよかった、と後悔しているんだ。

おれは恥ずかしい。こんな一丁前なことをほざいて。秘密にしておきゃ良かったんだ。おれは恐ろしい。こんなことを言ったら、まるであんたの考えを、否定するみたいだろう。

こんなこと続けていたら、おれのそばには誰もいなくなっちまうんじゃないかって、そう思ったら、もう書けないんだ。