かへでぱへ

思ったことなどです

真人間になるための忙しくする訓練

 朝満員電車に乗って実習に行き、昼学校に戻って授業に出、その後は研究室で夜遅くまで課題をやって、きりがついたら帰って寝る。

 院生になってからずっとそんな生活を続けている。冷静になってみたら引くくらい勉強をしていると思う。毎日忙しくて、土日も研究室で資料を作成したり文献に目を通したりしている。こうやって忙しくしていること、以前の自分からはとても考えられない。もともと忙しくしていることが苦手なタイプで、手帳を見て予定が詰まっていると緊張や不安で胸がギュッとなってしまう。そういう性格だった。だから仕事が増えることを強迫的に避けてここまで生きてきたのだけど、とうとうそれも通じなくなってきたという感じ。院生という立場になってから、ラクそうな逃げ道が次々に消えて、あれもこれもやらなきゃダメですみたいな状況になったのだけれど、案外こうやって順応している。これが僕には驚きだった。現に今も、実習の報告書を書きながら夜やらなくちゃいけないレポート2本の構想を練り、頭の片隅では明日やる課題と実習の準備の計画を立てているけど、以前のような胸がギュッとなる感覚は無い。日記は息抜きで書いている(この息抜きを取り入れる習慣も院生になってからついた)。やることだらけの毎日に慣れてしまったのかもしれない。毎日目の前の仕事を、優先順位の高い順にただ片づけて吸収していくというサイクルや心構えが自分の中に浸透している気がする。まるで優等生じゃないか。

 その日のやることを全部終えて、日付が変わったくらいのタイミングで真っ暗な研究棟を後にすると不思議な感覚に襲われる。家まで自転車をこぎながら、静かな高揚感に包まれて鼻歌を歌いたくなる。達成感というものだと思う。

 カウンセリングに通っていた時、「自分を褒めたことがあるか」と聞かれて答えに窮したことがあった。心理士はもっとわかりやすく、「達成感というものを感じたりすることはある?」という質問も投げてくれたが、僕は深いソファの中で首をかしげるばかりで、あとは「うーん…」とか「そうですねぇ…」とか言うだけだった。心理士は「まぁ普通の人はもっと当たり前に自分を褒めたりしてるけどね」と言ったけど、それは僕にとって新鮮な発見だった。みんな自分を褒めたり達成感を感じたりするのか。でもどうやって…?

 かなり前からそのことを意識するようになって、最近やっと自分で体験することができるようになってきた。気がする。

 忙しさに耐性が少しついたこと、達成感を感じて自分を褒められるようになってきたかもしれないこと。あんなに遠くにいた“真人間”に、本当に少しずつだけど近づいているのかもしれない。